MAD PROFESSOR One 1


2016年製 筐体下地の透けたブラウンの塗装 MXR筐体 赤LED サイドジャック トゥルーバイパス
DCジャックはインジャックサイド 9V駆動 プリント基板 内部表記 ONE1.1V 2012

内部トリマ操作前に穴の周りの足がGolden CelloBluebirdと違い∴では無く∵のように逆三角形に並んでいたため、トリマの向きを確認するため内部を確認しました。予想通り逆向きに付いていることを確認しました。操作には注意が必要です。
他の違いとしては奥の基板が主にリバーブの基板、手前の基板が歪みの基板となっており、MAD PROFESSORでは珍しく表面実装で作られた部分が大半を占めています。

リバーブ側にはSpin SemiconductorのFV-1が確認できます。ROMに8種類のプリセットコードが設定されているデジタルICで、リバーブ系なら切り替えることによりホールやプレートなど設定できる物にはよく使われています。正確な動作に必要な水晶振動子やチップタイプのTI製NE5534が多数確認できます。ドライブ側にはノイズフロア軽減やヘッドルーム拡張に作用しているonsemi製アナログ・オーディオ・コンパンダIC NE570Dが使用されています。2N7000やBC550Cなどのトランジスタが五つ確認できますが、詰めて設置されたものの詳細は確認できていません。
このペダルはMAD PROFESSORで設計を務めてきたBjorn Juhl(ビョルン・ユール)氏によるものかは断定できません。歪み側にはあえてスルーホール部品を使用しているなど、ある程度ビョルン氏の設計思想を受け継いだようにも見えるのですが、全体的には今までと違った印象を受けました。命名規則も少し外れている感じがします。公式にも誰が設計したかの発表はありませんでした。

本機は2015年にアメリカ大手楽器店にて限定販売されたブラウンサウンドをコンセプトに作られたディストーションとリバーブの複合ペダルです。実際には翌年の2016年にMAD PROFESSORの当時の日本代理店LEP INTERNATIONALを経て、日本国内でも取り扱いが開始されたため、先行販売的な意味合いが強いです。本機はLEP INTERNATIONALのシールが張られたこの時期の個体になります。その後、現在の代理店キョーリツコーポレーションによって2024年に500台限定で復刻したうちの数台が日本にも入ってきたようですが、内部の仕様変更などは確認できていません。画像などを見る限りトリマ周囲の足が同じように∵状についているので、恐らくレイアウトに大幅な変更は無いと見てはいますが、内部表記が違っていることもあり確証はできません。

取説に目を通すと、本機は『70年代後半から80年代前半にかけて人気のあったブラウンサウンドを再現するために設計された』と記されています。つまりエディ・ヴァン・ヘイレンの黄金期、いわゆるデイヴィッド・リー・ロス在籍期を意味しています。使用にはクリーンアンプにて使用し、ギター側のコントロールでゲインを調整できるような設計(入力インピーダンスは200kです)となっているため、前段にバッファ内蔵のペダルを置くことはダイナミクスを損ねるため非推奨と記されています。1台で完結させるシミュレータとしての側面が強い設計仕様となっています。先に販売されたGolden Celloではエコーとオーバードライブファズを合わせた「ヴァイオリントーン」エリック・ジョンソンのサウンドをコンセプトに設計されましたが、本機ではこれもまたギターサウンドの理想像の一つ、ヴァン・ヘイレンの明るく、暖かみがありつつもハイゲインなディストーション「ブラウンサウンド」を再現するために作られました。

ブラウンサウンドは特にアメリカでは人気があるギターサウンドで、本来とは異なるパーツで構成された自作ギターの愛機フランケンや、1stアルバムのレコーディングでは半分ほどで使われたIbanez Destroyerの使用も考慮に値しますが、主な研究対象は使用していたアンプに長年注目されています。初期のMarshall 1959 SUPER LEADに乗せた真空管の特定や電圧をどの程度下げたのか、使用していたコーン紙にまで研究のメスが入れられています。エディ世代ではない私からすると、狂気じみた執念を感じますが、生前その詳細を明かさなかった神秘性と、当時の青春世代に焼き付いたファンの理想像として、今もなお追い求められています。

ブラウンサウンドがなぜブラウンと呼ばれるのかは諸説あります。私が知っていたのは電圧を下げた際の真空管が減圧により茶色く見えたという説ですが、ギターサウンドに対するインタビューの中で、兄のアレックスのドラムのスネアのように温かく、パワフルな音のようにしたかったとエディが答え、その中でスネアの音をブラウンサウンドと比喩したことからエディのギターサウンドを表す言葉になったという話もあるそうです。
本機Oneはそんなブラウンサウンドを表すように茶色の塗装が施されています。名称由来は定かにされていませんが、私としては1978年2月10日にリリースされた1stアルバム「Van Halen」からなのではないかなと思います。この邦題『炎の導火線』はエディのライトハンド奏法を世に知らしめた歴史的名盤です。ミドルテンポながらブラウンサウンドの伸びが感じられる「Runnin' with the Devil」、ド派手なソロから名リフに繋がる「You Really Got Me」や私の世代でもタッピングの基礎的なフレーズとして前奏の「Eruption」は度々ギター雑誌のスコアに掲載されていました。あくまで個人的な見解ですが、エディを象徴する名前としてOneはかなりしっくりくる名前に見えてきます。

コントロールはレベル、プレゼンス、ブラウン(ディストーション)、リバーブの四つ。
内部にはリバーブを調整するためのトーンとタイムが内部トリマにて備えられています。

レベルの音量はリバーブを最小にして残り全て12時設定だとかなり音量が大きいです。私の環境ではレベルが10時辺りがユニティゲインとなりました。音量の増加にはブラウンやプレゼンスの設定も多少は影響がありますが、レベルでのボリューム増加が際立っています。使用するギターのピックアップにもよりますが、ブラウンとプレゼンスが高い状態でレベルを上げるとハウリングが発生します。ギター側のボリューム操作の際に十分な音量を確保できるためにかなりの高出力になっています。このペダルのボリューム操作での音色の変化は歪みの倍音にも変化を与える重要な要素になっています。ブラウンを最小にした際のユニティゲイン位置は10時手前頃で、最小でもしっかりとオーバードライブして歪んでいるため、ブラウン(ディストーション)の位置による音量増加の影響をあまり受けていません。

プレゼンスは主に高域を操作する効果です。単純な高域だけを調整するものでは無く、右へ回すと高域が強調されますが中域が弱まります。少しドンシャリ気味な感じに全体的に帯域が変化しているように感じられます。逆に左に回すと煌びやかな高域がスポイルされて、ミッドが厚いウォームでジューシーな響きになります。全体的に低域の主張があまりしてこない印象です。

ブラウンは歪みの度合いを調整するのですが、最小から12時に掛けて歪みが増すとともに音像や倍音も変化しています。きめ細かいマフっぽいところもあるのですが、聞こえてくるのは、「Van Halen」のブラウンサウンドの特徴をとても良く再現しています。煌びやかだけど耳に痛くない高音や、キメ細かくガサッとしていながらも粘りがあり、倍音はスッーと綺麗に伸びて消えていく。プレゼンスのコントロールで曲調に合わせて調整することもできますが。ギター側のボリュームコントロールでブライトでキメの細かい音色を、ミッドが厚く目が粗い歪みへと変化させることができます。この音質変化がとても秀逸で、異なるペダルを使用しているような変化に富んでいます。1st狙いの場合はプレゼンスを上げた方がより雰囲気が出てきます。

リバーブは内蔵されたリバーブの音量を調整するノブです。内部的には常時動いている状態になっています。12時地点でもしっかりと掛かります。現在では立ち上がりが早く、減退もスッと消えていく設定になっています。取説には当時のスタジオリバーブの残響をモデルとしているようです。元の音量が大きいこともあって、9時付近でも十分リバーブが掛かっていることが分かります。サスティンのアンビエンス的な味付けに機能しており、78~85年辺りの雰囲気が出ています。残響音も原音と比べて自然な感じに聞こえます。リバーブを深くしたり、残響をクッキリさせたい場合は内部のトリマーを操作することで調整ができます。

裏蓋を開けると奥の基板に二つ穴が開けられています。この直径2.5ミリ程度の穴に工具を通す必要があります。3ミリではギリギリすぎて基板を削る可能性があるため、お勧めしません。構造上、本来差し込んで回す側の反対から回すことになるため、思ったより力を掛けることとなり、スリットのサイズにあったマイナスを使用しないと、簡単に削ってなめてしまいます。小さすぎてもスリットを削るため、非金属性の物の使用を推奨します。深さもあるためドライバの先に角度が付いていると3ミリを超えて、スリットにうまく掛からない可能性があります。また、取説では電源が入った状態で裏蓋を開けたトリマ操作はショートの危険性があるため推奨していません。


また本機では、過去にこの内部トリマの操作性で取り上げたBluebird OverdriveとGolden Celloと違う点があります。穴の周りのトリマ取り付けのはんだがでは無く、Oneではとなっているためトリマが逆さに設置されています。可変域もn字(かまぼこ型)から、U字に逆転しているため誤って回すと破損します。
現在の設定ではどちらも写真のように真ん中にスリットが入っています。このような状態の個体をネットで複数確認しているため恐らく初期設定だと思われますが、確証はできません。
スリットは真っすぐですが、トリマが逆に付けられているため、正しくは↓を向いている状態です。この状態で操作することは、私には操作しづらかった為、∵が∴の向きになるように持ち替えて操作しました。この状態ではスリットの向きも↑を向くため直感的な操作で分かりやすくなります。以下の解説ではこの状態で操作した内容になります。
トリマの操作は力加減を誤ると簡単に破損するため自己責任で操作してください。


タイムはリバーブの残響の長さの調整です。トリマのスリット↑を左へ回すと長く、逆に右へ回すと短くなります。初期設定でも十分だと私は思いますが、もう少し長く響いて欲しい方は左へ回してみると確りと延長が感じられます。

トーンは掛かるリバーブの明度を調整します。左へ回すと明るく、右へ回すとぼやけてきます。個人的な感想では、このトリマの機能は効きが弱く感じられ、効果的には聞こえなかったため操作しなくてもよいのではないかと思いました。

総評としては、とても現代的に創り込まれたブラウンサウンドディストーションです。過去にMXRのEVH5150も使用していたことがありますが、本機はEQがプレゼンスのみにもかかわらず、エディへの再現度はとても高いです。少ない操作で簡単にブラウンサウンドが再現できます。少し毛色を変えたい場合はボリュームコントロールで味変も可能、設計者の調整が卓越しています。そして優秀なのがノイズがとても抑えられている点です、ホワイトノイズが極力抑えられており、ゲート無しでも使えます。リバーブと歪みのマッチングも素晴らしく、スタジオ録音そのままのサウンドが再現されています。

本機は現在生産を終了しています。エディの音を再現するためにリバーブもトータルで包括しているのは今となっては稀有なペダルです。実は本機はGolden Cello共にアメリカでは80ドル前後で投げ売られていた時期があります。本機がシミュレーターの側面が強く、既存のディストーションにリバーブが付いたものとして扱ってしまうと、インピーダンスの問題やリバーブ側の操作性、「Ain't Talkin' 'Bout Love」に使用されるような、揺れ物などのエフェクトペダルを挟めない自由度の低さ(リバーブをなるべく薄くして、後段に入れればそれっぽくはなります)から本格派からは、やはり支持が得られなかったのでは無いかと思います。ですが、再現されている「Van Halen」の音はとても完成度が高く感じられました。特にヘッドルームの高さはこのペダルは大音量での動作と、それに伴うボリュームでの操作感を想定して作られています。1stアルバムを聴いてこういう音を出してみたいと感じた人に試して貰いたい品です。