MXR M236 Super Badass VARIAC FUZZ



2016年発売 バーガンディのスパークルフィニッシュ MXR筐体 青LED サイドジャック トゥルーバイパス
DCジャックはインジャックサイド 9V駆動 赤い表面実装基板 内部表記 ASSY REV (C3) 11/30/2015 MMI20
チャージポンプ用にMicrochip Technology社TC7660SCOAが使用されています。本機の目玉と言える電圧の調整を担っています。一部コンデンサ類はスルーホールの物が使われていますがダイオードや抵抗材はチップ実装が使用されています。トーンコントロールなども追加されているためパーツ点数は多めです。


本機は2016年の年末に発売された、BADASSシリーズ第四弾。前回のM75 Super Badass Distortionから3年ぶりの新作になります。主導となって開発を担当したのはWay Huge Electronicsの創業者・開発者でお馴染みのJeorge Tripps(ジョージ・トリップス)氏です。今回はシリーズ初のファズですが「SUPER BADASS」という尊大すぎて、一部のプレイヤーからは逆にチープにも受け取られてしまう名前に対して、高級感を感じるボルドーレッドな色をチョイスしています。BADASSシリーズでは歴代の名機をただのクローンでは終わらず、不足な箇所を補う拡張性を広げたアレンジで昇華してきましたが、今回は円盤型の定番ファズ「Fuzz Face」が題材になっています。

トリップス氏といえばジムダンロップで販売されている、現行品Fuzz Faceの開発に深く関与していることは知られています。ジムダンロップ製のFuzz Faceは一時、単純な回路故に、コンポーネント差による最終的な出音調整が上手くいっておらず、歴代への再現の甘さに人気が低迷していた時期がありました。そんな中、トリップス氏の功績の一つとして挙げられているのが、不安定なゲルマではなく、安定したシリコンを用いて作られた「MXR M173 Classic 108 Fuzz」です。このペダルは当時低迷していたFuzz Face系ではかなりのヒット作だったことを記憶しています。Fuzz Faceを使用することによっては悩みの種になる、ワウペダルとのインピーダンスによるマッチング問題を、バッファー回路を組み込むことで解消させています。バッファーはスイッチで選択できるため、従来のような鈴鳴りを求めるニーズにも対応できる拡張性はトリップス氏らしい設計です。その後、数々のアーティストモデルとして販売されたFuzz Faceの開発にも携わっているため、彼が得意とする題材の一つと言えます。その中でも本機は全てが同じ回路というわけではありませんが、Band of Gypsys JHF3をベースとしています。この詳細はReverbのジムダンロップによるVARIAC FUZZ紹介動画の中で語られていますので、詳細を知りたい方は動画を確認してみると、より理解が深まると思います。

しかし、本機が2016年には既に販売されていたことは調べてみて驚きでした。私の印象では4~5年前に発売された比較的新しいモデルのように感じられ、販売と同時に売り切れが殺到したために、日本公式では愛用していると記載されている、ある著名人と最初からタイアップしていたのではと錯覚してしまうほどのヒット商品になります。
その著名人というのは2021年にバンドに復帰したジョン・フルシアンテ(Red Hot Chili Peppers)です。彼がボードに組み込んだペダルは総じて、人気が高まることはエフェクター界隈ではよく知られており、Ibanez WH10、BOSS DS-2、MXR micro ampといった年代を問わなければ比較的購入しやすい物から、BOSS CE-1といったヴィンテージや、Moogerfooger MF-103を筆頭に、Moog社の高級ハイエンドなモジュレーションに凝りだす人は、ジョンの影響を受けて導入した人が多かった印象です。本機もバンドに復帰後、初めて公開されたジョンのボードに入っていたために再評価され、入荷待ちになるほど人気に火が付き、転売が発生するほどの人気機種の仲間入りとなりました。近年2025年の彼のボードでも使用されているため、まだまだ人気は持続していきそうです。

コントロールはアウトプット、トーン、ゲイン、ヴァリアックの四つ。

説明書にあるように全て12時で開始しました。
アウトプットの音量調整は全て12時設定では少し音量が高く、11時ぐらいが私の環境ではユニティゲインでした。ボリュームの効きはとても良く、ゲインを最低まで絞ってもしっかりとボリュームが稼げます。ゲイン最低、ヴァリアックで電圧を最低まで減圧させても、ボリュームを上げればユニティゲインと同等の音量まで稼いでくれます。

トーンは高域をカットする働きを持ちます。12時地点では低域の主張が強く、ハムバッカーでは少しブーミーに感じられます。開始設定は12時とありますが右に回し切った状態が原音に合わせるとフラットポジションとなります。この位置だとシリコンファズらしい高域の鋭さが表れてきます。逆に左へとカットしていくと高域の棘が丸くなり、低域が主張しだすファットな音像へと変化します。基本的にクリアに聞こえるため電圧を下げても、ゲルマファズのような飽和したクリーミーさは感じられません。

ゲインの歪みの可変幅は広く、電圧調整のヴァリアックと合わせて音色を作る形となります。全て12時地点の初期設定からゲインだけを最小にすると音量が下がったクランチとディストーションの間くらいの歪みとなりますが、ヴァリアックを12時地点から可変させることにより、昇圧ではオーバードライブ、減圧ではしっかりと歪んだディストーションまで変化します。トーンを上げるとより歪みが増して聞こえると思います。一般的なFuzz Face系よりハイゲインです。
ヴァリアックは供給される電圧を5V~15Vまで調整できるというもので、実際にはどの位置が正確な電圧設定なのかまでは分かりかねますが、ツマミを操作することによるヘッドルームの変化は、可変域の操作内でリニアに感じられます。
12時を起点として右へ回すと昇圧され音量が上がります。これはゲイン設定が高いほど変化が感じられ、音量の増加もゲイン量に比例して上がっていきます。昇圧では歪み自体はそれほど変化はありません。ここは基本のゲイン量が強く反映されているので、高ゲイン設定のままで減圧しても、歪んだファズがオーバードライブのような歪みになるということはありません。低ゲイン設定においての不足したヘッドルームを補い、音圧をプッシュするような使い方は可能です。
逆に12時から左へ回すと減圧へと傾きます。ヘッドルームが閉じていくため、音量はかなり下がります。そのかわり歪みの性質がしっかり変化しビリビリとした不安定さが増していきます。9時位置と左へ振り切った最小位置でも違いが感じられ、最低位置では途切れかけたゲートファズのような、歪みの音像を限界で保っている潰れた音へと変化します。しかし、ギリギリ音楽的な形を保っているためアウトプットでボリュームを上げれば破綻せずに使える範囲内に収まっています。

ボリュームへの追従性はアウトプットでの音量を高めに設定しておけば、歪みの量を変化させファズからオーバードライブまでに操作が可能です。鈴鳴りのようなクリーンは一般的なFuzz Faceとは違い、入力インピーダンスが300kΩと高く、ギター側のボリュームを絞った際の高域の残り方が従来とは異なるため再現しにくい仕様となっています。

総評としてはシリコンFuzz Face系のサウンドをベースとしながらも、幅広い音作りが可能な優秀なファズです。音像がとにかくクリアで、ノイズも少ないため扱いやすいんですが、そこが逆にヴィンテージ感を潜めている極めて現代的な音です。厳密なベースがFuzz Faceでは無く、後期ヘンドリックスのサウンドを焦点としたファズ「Band of Gypsys JHF3」から来ているとなると、当時ジミ・ヘンドリックス機材テックだったロジャー・メイヤー氏の話では、オクタヴィアからオクターブアップを取り除いて改良したものという説がありますが、実際にはどのような回路だったかは断定できていないのが実情です。本機も直系のFuzz Faceとは距離を置いている回路構成と仕様動作に感じられます。


本機は現在も生産されています。国内ではジョンの人気が高いこともあってBADASSシリーズでは一番人気がある製品です。ピークより落ち着いてはいますが中古相場も他のシリーズより高めで取引されています。ジョン以外にもジェフ・ベックが生前まで使用していたこともあり幅広い世代で評価される、表面実装基板をベースとした現代ファズの名機と言えるのではないでしょうか。Super Badassシリーズ、最新作はオーバードライブペダルのM249 DYNAMIC O.D.へと続きます。