MXR CSP265 Joe Bonamassa fet driver


2013年製 黒に金字 MXR筐体 青LED サイドジャック トゥルーバイパス 
DCジャックはインジャックサイド 9V駆動 赤の表面実装基板 内部表記 ASSY REV(D1) 01/10/2013 MMI13
ハイカット用のプッシュボタン式スイッチを搭載しており、オンにすることで緑のランプが点灯します。またノブの配置は後続機と違い、ハの字型の上下非対称の並びをしています。
オペアンプはJRC 4558DDが確認できます。周囲にはクリッパー用に透明なLEDとシリコンダイオードが各二つずつ。基板上部にはMOSFETのLND150が二つ。半固定抵抗器が二つあり、基板は二層構造になっています。

本機はジョー・ボナマッサのシグネチャーペダルとして2013年に彼の公式ページから先行販売され後発版も合わせて限定500台のみ生産されました。日本国内では当時何台入ってきたかは詳しい数字は発表されてはいませんが、販売店の説明では100台以下だったとされています。
筐体カラーは彼の所有する1959製のGibson “Black Beauty” Les Paul Customを彷彿とさせる黒と金の配色で、JIM DUNLOPのシグネチャー品ではこの配色で作られることが多々あります。
ジョー・ボナマッサとMXRの開発チームは前々から打ち合わせをしていたようで、度々ネットに上げられるプロトタイプの存在が噂されてはいました。本機は彼が使用するBK ButlerのTube Driverの真空管部分を半導体であるFETを代用して、MXRサイズに再構成したものが主なコンセプトの概要になります。このシグネチャー発売後に通常版としてM264 FET Driverを販売する予定がある趣旨のアナウンスを当時出していました。

Tube Driverといえばジョー以外にも、エリック・ジョンソンやデビッド・ギルモア、ジョー・サトリアーニなど数多くの名プレイヤーに愛用された、クリップ部分に真空管を使用したオーバードライブペダルです。数多くの社名遍歴を持っているため、その時代背景はやや複雑になりますが、初期型をチャンドラー製、後期型をTube Works製、現行品をBK Butler製と国内ではザックリ分けています。実際には全て回路設計者のBK Butler(ブレント・K・バトラー)氏によるものです。初期型にはChandlerと記載されていることが多いですが、これは広報や流通を担うためにChandler Industriesを通していたためです。その後チャンドラーとの提携を取りやめ、バトラー氏は自身の会社Tube Works社をコロラド州デンバーで設立するも、チャンドラー社にTube Driverの商標を取られていたためTube Works社ではTube Driverを製作することはできずReal Tubeとして新たな真空管ペダルを開発します。一方、チャンドラー社はBK Butlerの名前を消した本当の意味でのChandler製Tube Driverを販売しますが、回路設計者のバトラー氏によると不完全なコピー商品で内部に致命的な間違いがあると指摘されています。その後、Chandler社のTube Driver商標は失効し、1993年頃から再びTube Works社でTube Driverは生産が再開されます。この後期型は初期型と比べると少し横にサイズが大きく、基本設計は同じですがReal Tubeの設計を経てのバトラー氏の調整が加えられ、初期型より荒々しさが弱まり、まとまった印象を受けるといった評判が散見できます。1998年にバトラー氏はTube WorksをGenz Benz社に売却。親会社のGenz Benz社も買収され最終的にフェンダー傘下に入ったころに整理されてTube Worksは完全に消滅しました。その後、2000年半ばごろからebayで受注生産のみで販売するバトラー氏個人による現行品BK Butler製が作られます。こちらは後期型をベースとしていながらも追加されたバイアスノブにより、真空管の電圧を調整することで歪み幅を広げています。

Tube Driverの特徴として真空管を使用していますが、オペアンプでメインの歪みを作っています。真空管を使用するペダルはよくただの飾りと言われてしまうことが多いですが、Tube Driverではオペアンプで過大増幅させた信号を、あえて低電圧で不安定な駆動をしている真空管に入力することにより、入り口でグリッドクリッピングを発生させています。ダイオードと違い、なだらかに波形を削るグリッドクリッピングは、従来の高電圧を掛けるクリーンな真空管アンプでも微弱ながら発生しています。真空管的な温かさを~といった真空管をバッファー的に通すものとは違うため、Tube Driverは搭載する真空管によって音が変化します。当時この仕組みは「低電圧DC電源で動作する真空管オーバードライブ回路」としてバトラー氏が特許を取得しており(US5022305Aは失効しています)、過去にはIbanezがTube Kingを発売した際は、アメリカでの販売はTube Works社が製造と販売権を握り、自社ブランドのラインナップとして販売しました。現在は手元にTube Works社のTube Driverがあるため、そちらと比較していきます。

前置きが長くなりましたが、本機のCSP265  Joe Bonamassa FET DRIVERはこの真空管部分をFETに置き換えることにより、チューブレスでTube Driverを再現しています。
FETはエフェクターではアンプ・イン・ア・ボック系などで多用されるシリコン製のトランジスタの一種です。電圧で流れをコントロールし、真空管と非常に似た増幅特性を持っているため、グリッドクリッピングの仕組みに近い動作を発生させることができます。実際には真空管の内部を走るような物理的な現象は発生していないため、FET+何かしらのクリッピングにてより真空管に近づける音色に調整するのがエンジニアの腕の見せ所となります。本機はTube Driver以上にパーツ点数が多く、真空管に対するFETの数は二つあり、内部にLEDやダイオード類が確認できます。

コントロールはレベル、ドライブ、ハイ、ローとTube Driver同じコントロール。本家と違う点はハイカットスイッチが付いています。

レベルは音量の調整です。ドライブ量の影響を強く受けるため、レベル最大の状態でもドライブ位置が9時地点では既に歪んでしまい、稼げる音量の低さから見てもクリーンブーストとしては使えません。すべて12時地点のセッティングではTube Driverより若干音量は低く感じられますが、ユニティゲインより音量は確保されています。歪ませて使う分には音量は問題ありません。
ドライブの歪み方はTube Driverと同じで完全に絞った場合はミュートされます。EQ設定にもよりますが、EQを抑え気味に設定するときめ細かい歪みでエリック・ジョンソン的なクリーミーな歪みが再現できます。サスティンを聞き比べるとFET DRIVERはTube Driverで使用される真空管特有のルーズさが少なく、締まって聴こえます。逆にEQを上げるとファズのような荒い歪みが発生しますが、Tube Driverの方がよりソリッドに歪みます。FET DRIVERはどちらかというとブリン、ブリンと弾むような低中域が特徴で太さが際立ちます。

このペダルはEQの効きがTube Driverと違い、FET DRIVERのハイは12時を起点に左へ回すと低域の強さに比例して増幅されます。本家Tube Driverではそれほど目立たない低域がFET DRIVERでは強く感じられるのはこのためです。そのため、ロー側の設定が強く感じられてしまいかなりブーミーな印象を受けてしまいます。エリック・ジョンソンやジョー・ボナマッサは本家Tube DriverのEQを0地点にして使用していることが多く、この設定でFET DRIVERを比較するとユニティゲインは異なりますが、ほぼ同等の歪みが再現できます。しかしEQを上げることにより、ローの出力特性との兼ね合い次第で、FET DRIVERとTube Driverのセッティングは異なってきます。

そこで利用できるのがハイカットスイッチです。最初はハイ側を下げればハイカットは可能なのになぜハイカットスイッチが付いているのか疑問でしたが、このスイッチでハイカットすると低域の増幅を抑えて高域をカットできます。ハイカットを使用することにより、高域が抑えられてコンプレッション感が増す用途にも使えますがTube Driverと同じ設定では全く再現できない音色になります。この中低域によった調整が、CSP265の特性なのかは後発版のM264と比較していないため分かりかねますが、商品説明にある「すごくフォーカスが効いていて、太いサウンドで、明るすぎることなくしっかり存在感がある。」というジョー・ボナマッサのコメントに合致しており、打ち合わせを経ての調整となったものと言えます。

このペダルは「FETを使用した真空管アンプライクなペダル」という先入観がありますが、既存のアンプを再現したのではなく、Tube Driverという「真空管の性質を逆手に取った発想」で作られたオーバードライブペダルがモデルになっています。本来ならば高電圧で使用する真空管をあえて低電圧で無理やり歪ませるという、独自性が認められ特許が取得できました。そのため、現在のアンプライクを謳うペダルとは異なった音色が感じられると思います。その特色がドライブとEQを全て最大にした際のガレージロックバンドのような荒いファジーな音に表れています。クリッピング回路を真空管以外に持たないTube Driverの方がよりドンシャリを叩きつけるような歪みが感じられ、エリック・ジョンソンやジョー・ボナマッサのイメージとはかけ離れているところもこのペダルの面白いところです。本機はEQを低めに設定した状態ではTube Driverを再現できていますが、EQを上げた高ゲイン設定での再現は、中低域の極太な音色故に苦手としているのが私の印象です。

本機は現在では生産を終了しています。販売当時は$169で販売され、海外では生産台数の少なさからすぐに完売しました。ところがジョー・ボナマッサの知名度が海外とは違う日本ではあまり注目されていなかったのか、100台以下の流通量でも当時は割と購入しやすかったです。その後、2015年にボナマッサの公式HP限定で、通常版M264 FET Driverを青く塗装した外見のPelham Blue Special Editionとして300台限定で復刻しましたが、即完売しました。現在ではM264 FET Driverも含めて生産終了しています。この時期の大手の歪み系は、ブティック勢に追いやられていた影響もあり、短命で消えていった製品も数多くありましたが本機もその一つと言えます。